少女は呆然と館を見上げた。

その見事な金の髪の先が焼け縮れ、常なら薔薇色の頬はすすで汚れている。

手の甲には火傷があった。

いつもは理知的な彼女も、今この状況で何も出来なかった。

彼女が助かったのは、彼女の部屋の下に植木が生い茂っていたからだ。

幸運以外の何ものでもない。

同じように逃げ延びた幸運な使用人たちも、ただ呆然とすることしかできない。

彼女は知っていた。

新年を祝うため集まっていた親族たち。そして両親もあの中にいる。

あの炎の中で、生きながら燃えている。

それでも彼女は動けなかった。

彼女は類まれな美貌も、卓越した頭脳も、群を抜く運動神経も持っていた。

けれど、彼らを助けるすべを持っていなかった。

彼女は燃え盛る館を呆然と見上げることしか出来なかった。

 

 

 熱い火の粉が舞う。

燃え盛る炎は、暗いはずの夜の闇を、禍々しく照らしていた。

黒々とした煙は、天高く立ち上る。

大きな港があるこの街の、高級住宅街と呼ばれるその一角の中でも一際立派な館が、

今、まさに焼け落ちようとしていた。



表紙に戻る 師匠と弟子と半魚人(1)に進む